最近階段が気になる。
階段といってもマンションの階段や、家の階段ではなく街の中にある階段。
気になるといっても「この階段、バリアフリーじゃないな」という気になり方ではなく、
むしろそれとは真逆で「上ってみるなら(下りてみるなら)上ってみろ」的な風情の
階段にワクワクする。
もう「ここで足を踏み外しても本望」と思えるほど愛おしい階段が都賀川にある。
都賀川が山手幹線と交差するあたりにある河床へ下りる小さな階段。
その「ワル」なたたずまいにグッと来る。
おそらくこの付近だけ公園化が遅れているので、昔の階段が残ってしまった
といった感じの明らかに昭和風情の「残っちゃいました系」の階段。
今のように河川敷におりて水と親しむための階段ではなく、落ちた物を拾うとか
非常階段のようなものだったのかもしれない。
昔々に上流から流されてきた石を思わせる歴史を感じさせる肌触り、なにか城塞の階段を
思わせるワイルドさは、きれいに整備された都賀川沿いではあきらかに異質なたたずまいで、
階段面(踏みづらという)もぼこぼこして、手すりすらない。
まるで上り下りすることを拒否しているかのように思える。
安心安全的な視線でみると、明らかにキケンな「肉食系階段」で、きっとちっちゃな時から
悪階段で15で不良で呼ばれたに違いない。
だいたい人に媚びていないのがいい。
「オレに近づくとケガするぜベイベー」的なハードボイルドさにそそられる。
都賀川は親水化され、誰もが気軽に川にアクセスできるようになった。
それはとてもすばらしいなことだと思うが、川は公園ではなく自然だということを忘れては
いないだろうか。(たとえ人工的なしつらえになっても)
そこで、このハードボイルド階段の存在が重要になってくる。
先週、都賀川の自然を象徴するかのような素敵な記事が新聞に掲載された。
灘区在住の水中写真家、宮道成彦氏が都賀川でアユの産卵の撮影に成功した。
振り返れば昭和40年代には洗濯排水が泡立ち、自転車が捨てられ、死んだフナに蛆がわき、
足にヒルが吸い付き「でかいドブ川」とまで呼ばれた都賀川をここまで蘇らせたのは、都賀川を
守ろう会を中心とする灘クミンの「灘魂」のたまものだと思う。
そして、かつては石垣に這いつくばって下りた川へのアクセスも容易になった。
しかしこの環境を守っていくためには、時にアクセスのしやすさが仇となる場合がある。
都賀川は親しい友人でもあるが、雄大な自然の一部である。
都賀川ハードボイルド階段は、そんな踏み外してはいけない人と川の一線を教えてくれている
ような気がするのだ。
この階段もいずれはなくなるのだろう。
その前に是非足を踏み外さないように下りてみていただきたい。