六甲道から少し離れているが、前回、前々回と六甲道の映画館の話題が続いたので
ついでにここも紹介しちゃいます。
いや、「ついでに」なんていうと、きっとここで青春時代を過ごした諸先輩方から
怒られるかもしれないが。
昔六甲道から2号線を…いや『阪神国道』を通り三宮へ向かう市バスが走っていた。
六甲道が終点になる前は現在親和女子がある旧神戸外大まで走っていたので
「外大前行き」と呼ばれていた市バス17系統。
このバスに良く乗った覚えがある。
六甲道駅南口を出たバスは八幡線を南に下り、桜口から2号線へ…いや『阪神国道』を西へ。
ここからは当時「銀バス」と呼ばれていた阪国バスと同じコースを進む。
旧県営烏帽子住宅を過ぎると右手にナダシンが見え、運転席後ろの「次止まります」
ランプが点き、やがて河原バス停に到着する。
この河原のバス停の真ん前にあったのがご存知「富士映劇」。
バスが止まると「金曜土曜日祝日オールナイト」の看板とともに否が応でも
目に入るのがめくるめくピンク映画のポスター群だった。
『痴漢電車 車内で一発』『痴漢電車 前から後から』
など新東宝の痴漢電車シリーズが多かった記憶がある。
子ども心に「なんだかわかんないけど電車ってすげえ」と思った。
また子どもたちの間では「どうも阪神電車内の実話らしい」などといったまことしやかな
噂がかけめぐった。
ときおり映画館から出てくる客が見えた。
彼らは背中を丸め、ポケットに手をつっこみ、逃げるようにそそくさと立ち去った。
この映画館は、どう考えても「悪所」としか思えなかった。
母親などとバスに乗ったときは絶対に目をそらせた。
(とはいえチラ見していたが)
できれば河原のバス停に止まらないで欲しいとも思った。
(とはいえチラ見していたが)
このバス停にはえも言われぬ「影」があった。
末期はピンク館だった富士映劇だが、もともと神国キネマと呼ばれていた一般映画館
で、日活の渡り鳥シリーズや「シンドバッドの冒険」などの洋画もかかっていたそうだ。
また灘区内の映画館では珍しい2階席もあった。
そんな富士映劇だが、神戸を離れているあいだに閉館していた。
現在はJAFの建物が建ち、すこぶる健全になった。
もう河原バス停でおりてもなにも恥ずかしくない。
恥ずかしくないのだが、なんか物足りない。
街に影が無くなった。
健康的で明るい場所ばかりでは街に深みが出ない。
つまり物足りない。
だからといって六甲道にストリップ劇場をつくれ、というわけではないのだが。
話を神戸に広げてみる。
神戸はいつの間にかワクワクしないない街になってしまった。
港街特有の「影」と山の手の「明」、そしてそれをつなぐ中の手の「グレーゾーン」。
街のグラデーションや明度差が神戸の魅力だったと思う。
かつては南京町や高架下やメリケン波止場の「影」が神戸に妖しい艶を与えていたはず。
だからみんなそんな「コウベ」にワクワクしたんだと思う。
眩しいばかりの「ハイカラ・モダン」はコウベの「影」があったからこそ引き立ったんだと思う。
灘で言えば「富士映劇とその前を通過するみなとまつりの花電車のコントラスト」である。
今の神戸はコンビニの陳列棚のようで、街に影がない。
暗い外人バーはなくなり、24時間明るい宮本むなしが席巻する街。
ま、そんな「安全安心」な観光地はコンビニ世代には受けがいいのかもしれないが。
富士映劇。
灘の街にとって大事なものを無くしたような気がする。
富士映劇跡。
現在はJAFに。
市バスはなくなり、阪国バスも銀色ではなくなったが
バス停は今も変わらず。