(前回までのお話はこちら→「42日目 傾いた喫茶店物語(2)」)
「傾いた家」の真骨頂は、やはり内部空間です。
そして2階がこそが、もっとも傾きを感じることのできる空間。
現在2階はパーティスペースとして使用されています。
では禁断の2階へとご案内しましょう。
まずはらせん階段で軽く三半規管がかく乱されます。
なんとなくクラッとくる感じ。
忘年会に参加した入社2年目のOLが
「なんか私酔っちゃったみたい」
くらいのほろ酔い気分のクラッとくる感じ。
上のフロアに上がります。
いきなり壁のレンガが傾いています。
壁どころか、柱も、窓も。
そしてテーブル面とイタリー製のアンティークなランプと、
窓の外の六甲模型だけが水平垂直を保っています。
これでかなりグラっときます。
忘年会に参加した入社12年目のOLに酔った勢いで
「私…部長の事…前から好きだったんです…」
って告白されたぐらいグラっとくる感じ。
なんとなく足元もおぼつかなくなって、ノンアルコールで千鳥足気分が
楽しめます。
そのうち料理が下階から運ばれてくるわけです。
自慢のデミグラスソースがたっぷりかかった名物のロールキャベツ、
定番のグルドチキンなどレストランスタイルのおいしいパーティ
料理に混じって、とある料理が運ばれてきました。
その料理がさらに来店者の心をグラグラと、いやグラングランと
揺さぶり、ついに傾き過ぎた既成概念が臨界点に達して
音をたてて崩れていきます。
「エビのペパーミントジンマヨネーズ和え」
もうドキドキするほどありえない色なわけです。
もうバクバクするほど意外な味なわけです。
忘年会に参加した入社22年目のOLが泥酔した勢いで
2次会のカラオケボックスでレベッカのNOKKOになりきって
ヘッドバンギングしながら熱唱するくらい、頭の中がグラン
グランするわけです。
もうこの時点で、かなりの浮遊感。
顔が自然とヘラヘラしてきます。
そしていよいよとどめ。
「傾いたグラス」の登場です。
入社32年目の海千山千のOLもおそらくこれで折れちゃうはずです。
微妙に壁の傾きと角度が違うところが、かなりクラクラきます。
傾いているというより、ゆがんで見えるのですよ。グラスが。
肉眼なのに魚眼レンズで世の中を見ている感じというか、
水の中にいるような世界の歪み具合によって「この世にいながらあの世感」
を体感することができます。
水平であるべきものが水平でない。
垂直であるべきものが垂直でない。
赤いはずのエビが赤くない。
人間はなんて危うい存在基盤の上で生かされているのだろう。
ああ、なんて僕はちっぽけな存在なんだろう。
ひょっとしたら、翌日から六甲道の駅前で相田みつお風の詩を書いて
売り始める人もいるかもしれません。
「水平じゃなくても、美しいんだね。 よしを」
「赤くても、青くても、黄色でも、エビなんだね。 かずを」
「傾いているって、生きていくってことなんだね。 たかを」
この傾いたグラスもあの忌わしい震災によって多くが割れてしまいました。
「特注やからね、割れたらおわりやねん」
割れたら終わりやねん…
灘区にはこんなことわざがあります。
「いつまでもあると思うな ハイジとよさこい」
ここには確かに「六甲道」が残っています。
でも、それが永遠であるか誰にも分からないのです。
普段は使えない2階スペースですが、忘年会、新年会などのパーティスペース
として利用することができます。
また、毎年クリスマス期間のみこの「傾いた2階」でクリスマスディナーを
楽しむことができます。
(12/22.23.24.25 クリスマスミニコース1850円〜)
「アレ」の2007年度版も出来てマス(12/12〜売り切れ次第終了)
※傾いたグラスは貴重品なので、通常は使用されません
今回は特別に出していただきました。