岩屋南町、ホームセンターナフコの前。
「浜岩屋」というバス停がある。
誰もいないバス停の前で、大きくうんうんと頷いてしまった。
ここは、岩屋の浜だったのか。
僕の目の前には大河のような国道二号線が流れているだけだ。
この場所の過去も見えないし、未来が見えてくるわけもない。
でも、浜岩屋というバス停が僕の感傷をかき立てた。
初めて神戸に来た10年前、海が遠くなった気がした。
自宅からバイクで5分も走れば、灘浜や摩耶埠頭に出られる。
でも、なぜか遠い海。
岸壁の海は、触ることができない。
海と陸の間に、厳然たる仕切りがあるかのようだった。
浜辺が見たい、と腹の底のあたりで思った。
海と陸を隔てない、浜辺の音が恋しくなった。
寄せる波が小石を鳴らす、カチャカチャという乾いた音が聞きたくなった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そんな感傷をバス停に残したまま、西へ歩く。
信号のタイミングで、一瞬の静寂が訪れる。
阪神高速の足元、HAT神戸と二号線に挟まれた場所に、工場や事務所が並ぶ。
こんなところで「1000人のチェロ・コンサート」なんて文字を見かけた。
これも浜岩屋の底力なのかもしれないなぁ、と何の根拠もなく思った。
ふと見上げると、暗く立ちこめた雪雲が摩耶山を包んでいた。
春はまだまだ遠そうだ。