ウェブによって身近に使えるようになった衛星写真を眺めると、大阪湾の北に、一箇所だけ「赤い島」を見つけることができる。
「神戸市灘区灘浜東町」、もとい神戸製鋼所の「神戸製鉄所」である。
昭和34年(=1959年)、新在家の海が埋め立てられてから、50年が経つ。
赤い島は、今も線材や棒鋼の生産を続けている。
十年以上前、灘区に住み始めて最初に覚えたランドマークが、神戸製鋼所の紅白煙突だった。
総出力140万キロワットの石炭火力発電所建設に伴い、120メートルの紅白煙突は輪切りにされてなくなった。
そして今度は、撞木を2本束ねたようなのような150メートルの灰色煙突がニョキニョキと生えてきた。
ところで、この赤い島には、「火喰い竜」と呼ばれる怪物が棲む。
2500度に達するという高炉の底には、「サラマンダー」(火喰い竜、もしくは火トカゲ)と呼ばれるドロドロに溶けた鉄鉱石の残渣が溜まるのだという。
数年前に行われた高炉の改修工事を追ったドキュメンタリーは、「灘浜サイエンススクエア」で見ることができる。
ナダの火喰い竜、そんな物語が灰色の煙突から吹き上がる。
世界中の自動車の2台に1台は、ナダの火喰い竜が棲む高炉から生み出された部品を使っているのだ。
日本最小で世界最高効率の高炉は、今も灘浜で熱く煮えている。