灘浜緑地の昼下がり。
差す光は優しいが、真冬の気温は刺すように身に染みる。
河口付近にはカモが群れてたゆたい、
岸からサギが獲物を狙っている。
そんな穏やかさを子どもたちの歓声が切り裂く。
柵の支柱から穏やかな水面に向かって垂れ下がる白い係留索を
子どもたちが夢中になって引き揚げている。
牡蠣養殖場の映像が頭をよぎり、微笑んでしまう。
海面より下の部分は藻がついてカーキ色になっている。
ぬめぬめとした手触りに悲鳴を上げながら、
それでも目的を達成するために勇気を振り絞る。
ようやく3mほどある綱を端まで水揚げした。
頭をぶつけ合いながら必死の手探り。
取り合うのは親指の先ほどのカニである。
きっかけはケーソンにへばりついたカニだった。
子どもの拳ほどもあるそれは、コドモ心に大きな火を着けた。
棒きれにズボンの紐を結んで垂らすが届かない。
たとえ届いたとしても、エサは無かったのだが。
その様子を見て、僕はいたずら心を発動。
先述の手を使ってカニを捕り、
ニヤニヤしながらその子の後ろに立ってやった。
振り返って、僕の手の中にあるカニを見て乱舞。
騒ぎは波のように広がり、間もなく綱の周りは子どもだかり。
3本あった綱はたちまち全て引き揚げられてしまった。
係留索には大きなフジツボがびっしり付き、
所々にイソギンチャクも見られる。
そしてお目当てのカニは、突然引き揚げられたことにビックリして
家主のないフジツボの殻からノソノソと出てくるのだ。
3本の綱から10匹あまりの小さなカニを捕まえた。
プラスチックトレイに移して観察。
「水がないとヤバいんちゃう?」
「エサって何やろ。焼き芋の残り、食べるかな?」
「コケやったら食べるかもしれへんで」
「やめろー。BBだまは入れるなー。」
どんどん器は満たされていく…。
しかし、最初に見つけた大きいカニは美味そうだったなぁ。
アレを捕獲出来なかったのは大人的には悔しい。