「おーい、は よ 行くぞーっ!」
僕の声が交差点に響き渡る。
女の子たちはそそくさとついてくる。
男の子たちはお構いなし。
ここを通る度に繰り返される光景。
阪急王子公園駅西口前には蟻地獄のような罠が待ち受けている。
正直、できれば通りたくない魔のエリア。
子どもたちにとっては甘い蜜場なのだろうか。
高架の支柱に設けられた斜面、
通りすがれば子どもたちは取り憑かれたように登り、滑る。
眺めながら色々考える。
この斜面にはどんな意味があるのだろうか。
なぜ子どもたちは滑りの悪いこの斜面を必死に滑ろうとするのか。
登るのが楽しいのか、滑るのが楽しいのか。
いや、滑るのが楽しいのはどうやら間違いない。
王子動物園のゾウさん滑り台も、篠原グラウンドの滑り台も
同様に魔のエリアであるからだ。
しかし、滑らないこの斜面にどんな魅力があるのだろうか。
そういえば…かつて自分も取り憑かれていたような気がする。
時間を食って親を困らせたような記憶がかすかにある。
滑るか滑らないかは二の次で、とにかく登って滑りたい。
斜面、それは駆け上るためにあるもの。
登ったら歩いて下りるなど無粋なことをしてはいけない。
駆け下りる、転がる、滑る、時には頭から。
滑り台でもそうじゃないか。
逆登りは子どもたちの遊びの定番。
下りは頭からスーパーマン。
遊びの本能に深く根ざした行動パターン。
この斜面は本能を刺激していたのだ。
いつの頃からかそんな子ども心を忘れてしまっていた。
今度自分も登ってみよう。
滑りたくなるだろうか。
何か思い出せるかもしれない。