底抜け!痛快!!船成金の館(52)(08/16 12:24) Page:1
Author : dr-franky
Category: まちなみ・建築

 銀次郎は橘通の市役所へ向かう前に、商業会議所へ立ち寄った。
 会頭の滝川儀作が出迎えた。
 「神戸として救援せねばならない」。銀次郎の言に、儀作は大きく
うなづいた。「今しがた、会議所の会員に一人参萬円をめどに義捐金
を呼びかけました。」
 「じゃあ、私は市役所で市長に会った後にでも、心当たりをたずね
て回って説得してみよう」「よろしくお願いします。私も救援物資の
買出しに出かけます。それと、三井物産の川村支店長から、救援物資
輸送に船を提供する、という申し出がありました」「ありがとう。市
長にも伝える」。

 フレンチルネッサンス風の市庁舎に着くと、銀次郎は市長室へまっ
すぐ向かった。石橋市長が幹部と、義捐金の募集などについて打ち合
わせしていた。
 銀次郎は石橋市長に事の次第を伝えた。
 「物資は順番に送り込んで行きましょう。明日中には神戸を発ちま
しょう」。「わかった。三井物産、商議所にも連絡をお願いします。」

 銀次郎は、まず西は舞子、東は御影あたりまで、知己の素封家や資
本家をたずねて回って、義捐金の拠出を説いて回った。
 義捐金は、儀作は壱百萬円をめどに考えていたが、最終的には壱百
五拾萬円以上の大口義捐金が寄せられた。
 銀次郎が駆け回る一方、儀作は主だった商店街をたずねて、「在庫
品でも訳ありでも構わないので、安くで物資を提供してくれないか」
と呼びかけて回った。
 商店主たちの反応はすばやかった。瞬く間に、指定した港ちかくの
保管場所に、ステテコや浴衣といった衣料、どんぶり、鉢、箸などの
食器、長持など家財といった物資が運び込まれた。その規模、時価弐
百五拾萬円。しかし儀作の中での予算額は五拾萬円である。だが、商
店街の「大将」たちは、「人さんが困っているときにそろばん勘定な
んてでけへん」と、無償での提供を申し出ことに、儀作は胸を打たれ
只ただ頭をたれて、感謝の意を表すより他なかった。

 取り急ぎの救援船は、川村氏の手配で、上海丸と決まった。
 集積場所からはしけによって、市民の善意の品々が上海丸の船腹に
収められていった。そしてメリケン波止場から、石橋市長、商議所代
表として会頭の儀作、市会議長の銀次郎も、被災地へ向かうべく、メ
リケン波止場から上海丸へ向かうランチの人となった。
 二日おそく、物資を満載した上海丸は神戸港を出発した。
                        (この項つづく)


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